佐藤弘氏(故人) 建築塗装・・・平成5年度受賞
 
 佐藤さんは、京都で指折りの名匠として知られていた父親の仕事を、高校時代から見よう見まねで手伝っていた。建築塗装の仕事は、文字通りの天職だったのだ。卒業すると、すぐに親元を離れ、修行に出る。以来、常に独立独歩の路を歩み、再び一度組んだ仲間とともに同じ現場で働くことはなかった。独立心もまた旺盛だったのだ。二十代の半ばには、すでに一人前の職人として次々に仕事をこなすようになる。
 気が短く、職人気質(かたぎ)の人で若い人にも厳しかったようだが、慕われて人望のあった方です。
 
名匠だけが成し得る仕事
 佐藤さんが手がける古式塗装は文化財などの伝統的な木造建築を修復する際に欠かせない技法である。改築した部分を昔ながらの顔料、染料、薬品などを用いて既存の部分と違和感のないように、古びた色合いに仕上げてゆく。着色はもとより木目書き、漆塗りなどさまざまな技法が要求され、それぞれに長い経験に裏付けられた熟練の技かなければうまくゆかない。しかも、失敗は許されない厳しい仕事である。
 その施工は数多いが、代表的なものをあげると、同志社大学のチャペル、新島邸、西芳寺、東福寺、南禅寺、西本願寺などがある。いずれも、京都の歴史・文化を象徴するものばかりだ。いかに佐藤さんの技が高い評価を得ていたかがわかる。また、少し異なるところでは、祇園祭の山鉾の大車輪に古式漆の吹き込み仕上げも手がけている。
 
業界の明日に尽くす
 平成五年には京都府塗装技能士会の結成に発起人として力を尽くし、その後も企画・運営に積極的に取り組んだ。また、京都府塗装工業協同組合の副理事長の要職も務め、業界の発展に貢献。後進の指導にも努力を重ねた。六十一歳で亡くなったので、四十年以上もこの仕事一筋に打ち込んだことになる。